Tango の記憶

ACCEL Technologies 社の Tango CAD ツールは、1985年ころに Protel から OEM 供給を受けることにより販売が開始されました。このころ、米国のエンジニアの机の上にこのTango のパッケージが置かれているのを良く見かけました。安い価格設定(たぶん995ドル)により、すぐに売れ始めたのではないかと思います。

米国で販売が開始されてから、数年の間は日本に販売代理店がなく、個人輸入の形で日本に入ってきています。京都の京都の(有)明光電子もこのようなユーザの一社で早くからTango を使い始めており、日本に代理店ができるころにはすでに多くのフットプリントライブラリが蓄積されていました。

この間、ACCEL Technologies 社は日本Tango 製品を販売すろためのパートナーを探していました。当時のテクスパートにも代理店をやらないかというアプローチがありましたが、結局、1991年ごろソーテック(工人舎事業部)が総代理店にきまりました。ソーテックは OrCAD の国内販売チャンネルが現地法人化(インテリジェントシステムズ・ジャパン)されたことにより、OrCADとの代理店契約が終了しその代替として、急きょこのTango に移行しました。この時のソーテックにとって Tango は渡りに船の存在だったのではないかと思います。

この時すでに Tango ツールは Protel の OEM ではなく、SeriesⅡという ACCEL Technologies 自社開発の製品に移行していました。Tango ツールの日本への本格上陸はこのバージョンの回路図エディタとPCBツールから始まりました。

この時のソーテック戦略は、PC 98 への移植とプログラムの日本語化により、OrCAD の日本語版として OrCAD ユーザからの乗換えを狙うというものでした。当時ソーテックは5年以上も続いたOrCAD の代理店契約が終了した直後でしたので、アクティブなOrCAD ユーザのリストをたっぷり保有していました。このためこの戦略は非常に的を得たものでした。私が前に在籍していた楽器会社でも、ソーテックからダイレクトメールを受け取り、即座に購入したようです。しかし、ほとんどのOrCAD SDT ユーザは Tango SCH を購入した後もOrCAD SDT を使い続けたようです。おそらくOrCAD の日本語版とはいうものの、OrCADの代用には機能不足だったのではないかと思います。しかし、OrCAD の機能にこだわらないユーザやPCBのウェイトが高いユーザにとって、Tango は実用的な製品であり最適な選択肢であったと思います。

この PCB の販売促進のためソーテックは、前記の Tango 個人輸入ユーザ(有)明光電子から、PCB ライブラリの供給を受け、Tango オプションライブラリとして販売しました。これより数年後のことになりますが、テクスパートでもこの(有)明光電子から、これを拡張した Protel バージョンのライブラリを購入し、Advanced PCB 用としてTechLib-PCB enhanced の名称で販売しました。

当時の価格は、Tango SCH が150,000円くらいで PCB が598,000円だったと記憶しています。当時、OrCAD PCB は実用レベルには達しているとはいい難い製品でしたので、Tango PCB はソーテックにとって非常に販売しやすい製品だったと思います。

このように、当時の Tango は 国内のPC ベースの CAD 市場では優位なポジションにあり、この状況は、Protel が Windows で攻勢をかけてくるまで変わりませんでした。

一方、このころ開発元 ACCEL Technologies と Protel との関係は最悪の状態だったようです。Tango の新バージョンは自社開発ということになっていましたが、Protel サイドとしては、OEM 供給された製品がリバースエンジニアリングされ、取引が一方的に中止されたということで怒り心頭のようでした。事実 Protel Autotrax と Tango PCB SeriesⅡ の間には、ベタ塗り機能以外に大きな違いがなく、どちらかが真似をしたとしか見えないものでした。

(この時からの怨念が作用したのかどうかはわかりませんが、この約10年後に ACCEL Tecnologies は Protel に買収されます)

そうこうしている間に Windows 時代が到来し、Protel との競争が始まります。

1992年ころ米国のトレードショーに出向いた時、Tango の Windows PCB ツールが展示されており、リリース間近のようすが伺えました。この時デモに用いられていた PCB のサンプルファイルは、Protel のWindows 版のデモに用いられていた円形基板とそっくりのものでした。一瞬、また Protel からの OEM が開始されたのかと思いましたがそうではありませんでした。この時すでに、Protel for Windows がリリースされていましたので、単なる後追いのようにしか見えませんでした。しかし当時 Protel は米国での実績がほとんどありませんでしたので、Protel for Windows の出鼻をくじくにはこれで十分だったのかも知れません。

日本では、1993年(1994年だったかも知れません)にTango Windows PCB ツールがリリースされたように記憶しています。この時すでに Protel for Windows は 第二世代の製品に切り替わるころであり、製品の改良がかなりすすんでいました。また積極的な宣伝広告によって知名度も上がっていました。このため、Tango のWindows PCB はリリース早々 Protel for Windows との競争にさらされることになりました。

Tango Windows PCB ツールはリリースの時点で、Protel に対してつぎのようなハンディを背負っていました。

(1) Windows PCB ツールとしてはProtel の後発である
少なくとも1年以上のタイムラグがあったように記憶しています。
(2) 価格が高い
Protel Advanced PCB の 398,000円に対して、Tango のWindows PCB は 850,000円くらいの価格であったように記憶しています。
(3) 回路図エディタが無い
当初 セットで使用できるWindows 版回路図エディタがなくこれがリリースされるまでに1年程度かかりました。

この中で一番大きな問題はその価格設定でした。ほとんど同じようにしか見えないProtel Advanced PCB との価格差が 2 倍以上もありました。また、この80万円を超える価格設定は、ソーテック自らが OrCAD PCB と Tango PCB で築いた 598,000円の価格帯の市場を放棄し、Protel に譲りわたすという結果を引き起こすものでした。

これに対してソーテックでは、日本語化によって競争力を強化しました。また 併売していた DOS 版のPCB ツールの価格を 598,000円から 398,000円に引き下げました。そしてしばらくして、Windows 版回路図エディタがリリースされましたが、Protel との競争は依然として困難なものであったと思います。

その後、このTango のWindows 版は名前が P-CAD に変更されましたが、これも日本では裏目に出たと思います。日本では P-CAD よりも格段に Tango の方が既存ユーザも多く有名でしたので、この名称変更がすぐに売り上げに結びつくことはなかったように思います。

1999年の後半だったと思いますが、Incases 社から供給を受けた伝送線路シミュレータが、P-CAD のオプションとして1,500,000円くらいの価格で販売されたことがありました。しかしこの直後 Protel は 同じものを当時の Protel 99 に組み込み無償提供を始めました。これによりP-CAD では百万円を超えるのものがProtel では無料という、にわかには信じがたい不可解な状況が発生しました。また、このころにソーテックがキョーデンに買収され、国内の代理店業務がアクセルジャパン(通称)移管されたと記憶しています。

そして後の2000年の1月に、ACCEL Technologies 社は Protel(現在のAltium)に買収されます。その後も数年間 Tango のWindows 版は P-CAD の名称で販売が続けられましたが、現在ではProtel への一本化に向けて作業が進められており、収束に向かいつつあります。

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